ライター
では、ベストな睡眠時間とはどれくらいなのでしょう。
柳沢
個人差がありますが、20歳以降の大人なら平均7時間、ほとんどの人は6~8時間の間です。自分に最適な時間を探すには、まずは休日も含めて毎日同じ時刻に就寝・起床する。これを続け、昼間に一日中眠くならず頭もスッキリしていれば、その人にとって必要十分な睡眠時間ということになります。
ライター
私たちが学生の頃、セグメンテッドスリープというものがはやりました。3時間寝て、起きて勉強して、また3時間寝ていましたが、効果的なのでしょうか。
柳沢
科学的な根拠は、あまりないと考えます。生物学的には、夜に続けて長く深く寝るのが、人間の睡眠の基本です。ほとんどの動物は、少し活動して、また寝ることを繰り返します。面白い学説があり、深く長く続けて寝る能力と頭脳の発達は、共に進化した関係にあると唱える人たちがいます。深く長く続けて寝るためには安全を確保しなければなりません。睡眠により頭脳の発達が促され、それによって夜をより安全にできるようになり、さらに長く深く眠れるようになった。例えば、住処の入り口に火を焚く能力を人間だけが獲得し、それにより外敵の侵入を防ぐことで、夜間の安全を高める等です。
ライター
コロナ禍で仕事や生活の環境が変わり、心配事やストレスで寝られないという人が多いのではないかと思っています。私は、それが睡眠にも大きな影響を与えていて、夜中に目覚めてしまいます。以前は、朝までとおして寝られたのですが。
柳沢
それは「中途覚醒」といって、誰にでも起きることです。持続的な睡眠を維持する能力は、正常な加齢現象において落ちていくものです。だから30代後半くらいから、夜間に1,2度起きるのは当たり前になります。アドバイスとしては、中途覚醒をあまり気にしないことです。良くないのは、起きるたびに時計を見たり、電気をつけたりすること。起きてしまったらできるだけ動かず、静かにしていればそのうちにまた寝られます。気にし始めると、本当に眠れなくなります。それが不眠症への第一歩です。また、客観的に睡眠を測るとしっかり眠れているのに「眠れていない」という人がたくさんおり、これを「睡眠誤認」と言います。もし、本当に目が覚めてしまったら、むしろベッドから出て、リビングにでも行ってリラックスできるような何かをする。眠くなりそうな本を読むといったことです。そして、また眠くなったらベッドに戻ればいいでしょう。ベッドに居て、長いあいだ悶々としているのがいちばん良くないです。
ライター
現代人に多い、就寝前のスマートフォンの使用は良くないことでしょうか。
柳沢
あまりエキサイトしないなら、私は全然構わないと思います。それも気にし過ぎないことです。今のスマートフォンってよくできていて、夜はブルーライトが抑えられていますし、ディスプレイ面積が狭いため、ものすごく輝度を高めない限り目に入る光は大した量ではありません。それよりも日本の住宅の問題点は、天井の照明が明る過ぎることです。欧米の住宅の寝室はシーリングライトが無く、局所的なスタンドライトだけで、全体的に暗いですよね。あれが本来の正しい寝室です。寝室だけでなく、リビングや食堂なども、晩にそれほど明るくする必要はありません。夜の時間帯に強い光が目に入ると体内時計のリズムが遅れ、余計眠りにくくなります。